Koizumi’s Sweeping Victory and His Revolutionary Reforms

 

2001年8月3日 Daily Yomiuri Politics Inside掲載記事

 

上智大学法学部教授 猪口邦子氏 

 

729日に行われた参議院選挙は4月に誕生した小泉政権下における初の国政選挙で、総理大臣の人気はそのまま投票結果に反映され、自民党の大勝となった。1955年に保守勢力が合体して誕生した同党は、1993年の細川政権時などの一時期をのぞき日本の最大与党としての地位を維持してきたが、その長期政権のなかで、さまざまな既得権の占有が進み、政策決定過程は不透明で、有権者は疎外感を深めたために、小泉政権前夜、内閣支持率は回復不可能に思えるほど低下していた。小泉氏はそのような自民党の閉鎖的な体質を批判し、既得権に全面的に切り込む構造改革を掲げ、奇跡に近い大勝を自民党にもたらした。その理由を挙げてみよう。

第一に、小泉氏は自らの自民党内での権力基盤の弱さを熟知し、支持基盤を党内ではなく市民社会に求めて、国民の真の要望への感度と対応力を高めていった。そのことは、既得権に切り込む(彼の言葉では聖域なき)構造改革など経済政策はもちろんのこと、ハンセン病裁判の控訴断念、ジェンダー問題や保育園拡充への抜本対策など社会政策の本格化にも示され、都市部のサラリーマンや主婦やワーキングマザーなど従来は無党派層になりやすかった有権者の政策面での共感を獲得した。もともと政治的に無関心になりがちな20代の有権者が自民党支持率を一気に6ポイントも伸ばしたのは特筆に値する現象である。

第二に、小泉氏は仕事が速い。そのような政策方針を就任からわずか3ヶ月の間に明確化し、全面的に推進する態勢を整え始めている。官僚への指示もピンポイントの正確さがあり、現場にインパクトが届くのも新幹線速度である。また、大胆な政策転換を推進しているわりには、人間対立を生み出していない。彼が憎むのは、時代遅れの政策と惰性であり、それに関わった人間個人ではない。人間関係の悪化などから消耗することが相対的に少なく、それだけパワーエリートの世界に埋没せず、市民への関心を維持する余裕があるようである。

第三に、小泉総理は日本なりのポストモダンで内発的な民主革命の触媒になっていると見ることもできる。小泉氏の高い支持率は、古くは米国の独立革命から、近年では旧東欧の民主革命に至るまで、各国の市民が民主革命の時期に指導者に寄せた熱い支持率を想起させる。政策の透明性とアカウンタビリティーを高め、インサイダーで支配される経済社会構造を変え、女性や社会的弱者等への政策を強化するのは、日本の民主主義の内実を高度化する静かな革命にほかならず、小泉民主主義に有権者は共感したのであろう。

選挙が終わって、いよいよ総理の構造改革への実行力が問われる局面となる。しかし、ここで大事なことは、総理大臣のみが仕事をやる国に日本をしないことである。かつてJ.F.ケネディーは「国があなたに何をやってくれるかではなく、あなたが祖国に何をやってあげるのかを問いなさい」と言ったが、小泉総理も、政府がどのような改革をやってくれるのかを待つのではなく、自分がどのような改革を自らの持ち場で実現できるかをまず問いなさい、と日本市民に告げるべきであろう。民主主義とは一人のヒーローの仕事ぶりをテレビで見ていれば済むシステムではなく、市民一人一人が時代の課題に参画して正義あるdecentな社会を作っていくシステムである。改革の時代の市民は投票所に行くだけではなく、職場や地域において日本の構造改革の担い手とならなければならない。