Terrorism/ Collective Economic Defense
2001年9月26日 Daily Yomiuri Politics Inside掲載記事
上智大学法学部教授 猪口邦子氏
ニューヨークと米国首都での大量破壊型テロリズムの犠牲者の方々のご冥福を祈りつつ、このような事件を再発させないための方策を考えてみたい。
第一に、今回のテロ事件の特徴は綿密で長期的な計画性にあり、これを封じ込めるためにまず必要なことは、いかに緻密に計画しても目的を全く達成することができないことを明らかにすることである。飛行機と超高層ビルはいずれも20世紀に発明されて20世紀人間社会の発展を象徴するものであるが、それを相互に自己衝突させるという極端な暴力には、世界経済そのものを破壊しようとする意図が感じられる。とすれば、世界経済の破壊を食い止めるための行動は最も本質的なアンチテロ戦略を構成すると考えるべきである。
実際に、9月12日の朝、日本政府が、東京証券取引所をこのテロ事件の世界経済への影響を最初に吸収する前線マーケットとして開幕させたことは、果敢なアンチテロ戦略であった。開幕と同時に株価が大暴落し、東京発世界大恐慌へと転落していく最悪の場合を含め関係者はあらゆるリスクを当然ながら考えたであろう。しかしもし閉鎖すれば、まさにテロリストの狙いである世界経済を麻痺させることが成功したことになる。東京市場の開幕は、テロ行為はローカルな破壊はできても、グローバルな効果をもたらすことはできないことを知らしめることになった。またニューヨーク市場が再開するまでの間に東京市場などでテロの影響を最大限吸収することによって、ニューヨーク市場への打撃を最小化することができたのであった。
この日、NATOは集団的防衛へのコミットメントを決定しているが、東京でなされたことは、集団的経済防衛と概念化されるべきである。テロリストの最大の狙いがグローバル化経済である以上、経済戦線を共に守る行動は同盟への等しく本質的なコミットメントである。
第二に、戦略的対応についてであるが、テロ犯罪に対して、空軍や地上部隊を大規模に展開すれば、自ら戦略的エスカレーションを遂げることになり、相手の報復能力の根絶が確認されていない段階ではその戦略的合理性は乏しい。テロ再発を防ぐためには、最悪の場合の被害最小化作戦であるミニマックス戦略を採択するべきであり、危機管理外交の伝説的な成功例であるキューバミサイル危機を参考に、相手の名誉ある退路を含めて政治的対応を成功させなければならない。
第三に、反撃の水平的エスカレーションも危険である。つまり、犯人グループないしネットワークを捕捉できないために、アフガニスタン政府、さらに非協力な諸国みなへ、というように、反撃対象を拡散していくことは不確定性の拡大となり、不確定性はテロの温床である。アフガニスタン政府を壊滅させるような大規模軍事介入については、それを最も狙ったのは冷戦期のソ連であり、また19世紀に遡るロシアの不凍港への野望を呼び覚ますことにもなりかねず、そのことのインド洋海域の国際政治への影響を米国は熟慮するべきであろう。
第四に、テロの温床を打破する最良の方策は、アフガニスタンの民主化である。今回の事件を契機に米国がアフガニスタンへの政治的影響力を高め、民主化への道のりを示すことができれば、それは最も強靭なテロ封じ込め政策となろう。米国大統領の父親は湾岸戦争において、軍事的には勝利してもイラク民主化への一歩を実現するという政治的影響力を確保できなかったが、アジア最古の民主主義国家インドの近隣での危機管理外交が、戦争なき民主化という完全勝利を米国にもたらすことを願っている。