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上智大学通信第300号掲載
温かさのあるコミュニティーに根ざす

法学部国際関係法学科教授 猪口邦子



 国際性とは、その根本において、世界とのリンクを評価し、強化することを奨励する共同体としての姿勢である。それはまた異なる人々や社会を認識し、異質との相互作用や信頼構築を評価する哲学的立場でもある。
 
 上智大学の国際性というとき、一般的には留学生の増加や外国人教員の貢献などをまずは想起するが、私が上智大学の国際性の本質を理解したのは、2年余り前、外務省より、軍縮会議日本政府代表部特命全権大使としてジュネーブに赴任する要請を受け、その課題に取り組んでいく過程においてであった。
 
 新学期を控えてのその突然の依頼に私は相当迷ったが、ウィリアム・カリー学長は、しばらく考えたのち、最大のサポートを検討するという、上智大学のリーダーとしての根本姿勢を明確にして私を深く励ましてくれた。このような場合、先延ばしとしたり、前例がないということに拘ったりする大学も多々あろうが、上智大学の国際的視座についての基本姿勢に揺るぎがないことが、日本として40年余りぶりの学者出身の大使の誕生を可能にしてくれた。
 
 同時並行して、当時の滝澤正学部長と続く林幹人学部長体制下にて、配慮ある万全の支援が差し伸べられた。講義の肩代わりからゼミ員の引き受け、教授会決定や各種の事務的調整を含め、そのプロセスに関ったすべての同僚と職員の友情は私にとって忘れがたい。国際性の本質は、そのようなことにこそある。なぜなら、国際的に活動するということは、自分の共同体に少なくないある種の負担をかける面があり、それは、「かまわない」の一言に実質的にも精神的にも支えられてはじめて可能となるからである。
 
 国際前線で活動する人は、恐らくそのイメージとは裏腹に不安感と自信のなさを抱いている。カリー学長は「上智大学として平和に貢献する機会にもなる」という過分な言葉で励ましてくれたこともあったが、大使受託を決意したのは、「猪口さんの学問に役立つことがあると思えるなら、支援してあげましょう。」という等身大の私への学長の言葉の方であった。
 
 キャンパスに戻ってみると、グローバリゼイションの時代のなかで、国際的な活動を志す学生たちが格段と増えた感がある。ジュネーブではよく、精力的に国際舞台で活動するための条件とは何かと聞かれたが、外国語での対応力や高い専門性は、手段的には重要であっても最終的な答えではないように思える。世界は広く、課題は無限にあり、競争は熾烈。そのなかでくじけずにパワフルな推進力を持続できるための究極の条件とは、温かさのある内なるコミュニティーにどこかで深く根ざしていることから生まれる安定感ではないであろうか。そのような温かさのあるコミュニティーを、さまざまな志を抱く教え子たちに、晴れの日も曇りの日も、いかに生涯にわたって大学として提供できるか。それこそが、グローバリゼイションの時代における大学の使命に思えてならない。