インタビュー:空爆は米テロの解決にならず、交渉絞り込めるかが鍵=上智大 猪口教授
[東京 25日 ロイター] 猪口邦子・上智大法学部教授(政治学博士)は、米国同
時多発テロ攻撃事件を発端にしたブッシュ政権による危機管理は、交渉のポイントをビン
ラディン氏とそのネットワークの明け渡しに引き続き絞り込めるかが鍵になると指摘し
た。
ロイター通信とのインタビューに応えたもの。
猪口教授は、今回の米テロ攻撃事件に関連し、米軍などによるアフガニスタン領土への
大規模な空爆や、アフガニスタンの国家解体では解決しないことだと指摘。米国が憎悪の
対象をテロ集団から対国家へ拡大すると、その地域に大きな不安定性をもたらすことにな
ると述べた。対処方法としては、危機管理の成功例であるキューバ危機の手法が有用であ
るとの見解を示した。
日本ができる最大の貢献については、経済のピラーを維持することと述べた。東京株式
市場が米テロ翌日に真っ先に開いたことについては、NATO(北大西洋条約機構)が集
団的自衛権行使を決定する以前、米テロ攻撃事件から24時間以内に日本はコレクティブ
・ディフェンスを行った、と政府はアピールしていくべきと語った。
インタビューの内容は以下のとおり。
<米国を取り巻く世界情勢はどのような状況にあるか>
――米国は、世界の主要国と、アフガニスタンの近隣の国々への働きかけという、2段階
の政治同盟を作ろうとしている。1段階目は、湾岸戦争やコソボ紛争時のように後々批判
が出ないよう、NATOやG8諸国の同意を倫理面からも取り付けることで、それはかな
り成功している。2段階目は、軍事作戦に必要な発進基地などの協力をインド、ロシア、
パキスタンなどアフガニスタンの近隣諸国から取り付けることで、ロシアはいち早くこれ
に反応している。
しかし、ここで気をつけなければならないのは、近隣の国々が米国に支援を申し出てい
る背景には、米テロ事件とは直接関係なく、むしろ国益の根幹に関わるそれぞれの国の独
自の事情があるためだ。インドならば、パキスタン側のイスラム勢力が背後にあるカシミ
ール地域の紛争を、この際解決したいという思惑がある。ロシアも、チェチェンでの泥沼
の苦戦はタリバンに支援を受けたイスラム勢力と対峙したことにあると認識しており、米
国が今回、その勢力の根幹を潰してくれるなら大歓迎、といった雰囲気がある。
<書店でS.ハンチントンの「文明の衝突」が売れている、今回のテロの本質は>
――テロリストは許されるものではなく正当化する理由はないが、文明の衝突というより
は、「冷戦期の戦略の後始末の失敗」がまず背景にあるのではないか。グローバライゼー
ションのなかで、ゲリラの温床となった貧困撲滅を重視しなかったという、国際社会政策
の不在という政治判断の失敗だったといえる。
ニュースでは、グローバル経済への反発ともいわれているが、そんな単純な話ではな
く、事件の裏には理念的な反発を越えるものがあると思われる。今日のタリバン政権を構
成するアフガン・ゲリラの基礎は、米国が冷戦戦略において養成した。タリバンとはイス
ラム学生を意味するが、ゲリラのなかには、米国が冷戦中に自分達を捨て駒に使い、冷戦
後の政治のなかで報われずに歴史の中に葬り去られた怒りがあるのではないか。
<今回の国際的緊張は長期化するか、危機管理を成功させるための鍵は>
――米国はあくまでも憎悪の対象を、ビンラディン氏とその犯罪ネットワークにナローダ
ウンする(絞り込む)ことが大切だ。これはテロ事件であり戦争自体ではないはずが、ゲ
リラをピンポイントで狙えないため、地理的に広い対象を戦闘地域として、近隣諸国へ対
象を拡大すると、国家対国家の不安定性をその地域に持ち込むことになる。その結果、米
国は窮地に陥ることになる。
今日をパールハーバーに似ているという向きもあるが、全くそうではない。唯一類似し
ている事例は、全米が完全に核兵器も含めた臨戦態勢をとったキューバミサイル危機であ
り、それは危機管理成功の伝説的な事例といえる。米国政府は今回、キューバ危機の手法
を採り入れ、まさにブッシュ大統領はケネディ元大統領になれるか、が試されているので
はないか。
キューバ危機時もターゲットを絞り込み、そのミサイルを動かしますかという、シャー
プな交渉のポイントを作った。今回も、ビンラディン氏とそのネットワークを明け渡すか
という交渉へ絞り込み、相手が自発的に交渉に乗るよう、名誉ある退路も開いておくこと
が大切だ。もう一つ重要なのは、交渉相手がこれに屈しなかった場合、第二の手の内を明
らかにしないこと。キューバ危機の危機管理交渉の決め手は、核攻撃へ一挙にエスカレー
トするかもしれない、という戦略の全域を開き、何が出てくるか分からないという不安を
抱かせ、相手が交渉に真剣に取り組む状況を作ったことにあった。
<果たしてブッシュ政権は冷静な対応ができているか、泥沼化のおそれはないか>
――ブッシュのチームは経験深く、ベトナム戦争のように泥沼化する前に何らかの対応が
あるのではないか。まず、犯罪者を裁き、ネットワーク犯罪集団を根こそぎにしなくては
ならないが、それはアフガニスタンの領土を大規模に空爆したり、国家を解体しても解決
しない。ロシアなど国際フロントの考えと、世論である国内フロントがいつ反戦に傾く
か、の2つを考慮すると簡単に地上戦などには行けないだろう。空爆をしたとしても、そ
の地域にNGOなどが入り、死んでいるのは女性・子供などの民間人となれば、米国の国
内世論はあっという間に風向きが変わる可能性が高い。
さらに、アフガニスタン政府を全滅させると、その地域に大きな不安定性をもたらすこ
とになる。特に米国とロシアとの関係は歴史的に深く見なければならない。旧ソ連は19
79年にアフガニスタンに侵攻し、新冷戦に世界が逆戻りするきっかけを作った。
米国が完全に冷戦が終結した、という理解をこの地域にするなら、空爆でアフガニスタ
ンを壊滅させるオプションがあると思うが、そこでロシアが冷戦流の野望を少しでも主張
する危険性があるならば、アフガニスタンの政権や国土を壊滅的な打撃を与えることは難
しいのではないか。
<約10年前に著した「戦争と平和」でコンドラチェフの波を基に、景気循環と戦争を関
連づけ、再び大規模な戦争が予想される次の循環の頂点は“新世紀初頭前後”と指摘して
いるが>
――大きな戦争は、長期の好況期の果ての不況局面に入った瞬間に勃発する傾向がある。
ベトナム戦争も戦後の米国の高度成長の果てにあった。軍拡をファイナンスするには、深
刻な不況期にはできない。空前の長期の好況期を経験したアメリカは、今、十分に軍事を
ファイナンスする余力が社会にある。
しかし、どういう時に大きな戦争のリズミカルな発生があるかという循環論のような知
識は、それが繰り返されないためにこそ価値がある。ここで勇み足を踏み、戦争に再び突
入するようでは、あまりにも歴史のワナから抜け出せなく残念だ。そうなれば、世界が経
済的に長い不況局面に入る可能性が高い。
<日本が果たしうる役割は何か>
――日本の最大の貢献は経済のピラーを維持すること。東京株式市場が米テロ翌日に真っ
先に開き、衝撃を吸収し、NY市場が大きく暴落しなかったことも大きな貢献、と米国に
理解してもらうことが重要だ。NATOが集団的自衛権行使を決定する以前、米テロ事件
から24時間以内に日本はコレクティブ・ディフェンスをやった、東京市場はその日オー
プンした、そう政府はアピールすべき。
(インタビュアー:寺脇 麻理記者)
関連ニュースの表示は, 次のコードの中の一つをダブルクリックしてください:
[RS] [RSS] [RSC] [DNP] [BOJ] [DBT] [INT] [BNK] [JP] [JDOM] [JLN] [MOF] [T21] [LJA]
2001年9月25日 火曜日 11:02:07
終 [nTK1018238]