政治を見据える【4】2000衆院選



2000年6月18日読売新聞掲載記事

上智大学法学部教授  猪口邦子氏


民主主義イコール人権ともいわれる時代で、民主主義の内実を豊かに確実なものにし、同時にそのプロセスを経て、本当に民主主義社会をより高みに導けるような良質のリーダーシップある政治家を選出しなければならない。民主主義は常にON GOING(現在進行形)なもの。その重要な部分、選挙に参画するんだという積極的意識を有権者はもってほしい。最近の投票率の低さをみると、そうした意識が薄らいでいるしまっている。教育の問題でもあるし、家庭の責任でもある。保護者が手本を示さないといけない。地域・社会でも、政治参加の責任感を持つ市民を育てていく努力をしなければならないのに、ちょっと手を抜いた感じがある。若年有権者の政治参加意識も非常にあいまいになっている。

ただ、私も毎日、若い人たちを教えていますが、今の若者はまっとうな問題意識と感性がある。今までは大人に任せていて、自分の世代が責任をとらなければ大変なことになるという世代間の不信感があまりなかったけれども、どうも長期不況の中で、自分たちの世代にツケが回ってきているという不信感が出てきている。そうなると、彼らは投票所に行くと思いますよ。実は高齢化社会の最大の問題点は、少数派化した若者有権者のことを思った社会運営ができるかということなんですね。若い人たちがダイナミックな発展を遂げることができるか。そのためには年功序列が崩れていかなければならないし、能力に基づいて勇気付けられる仕組みができるかどうかが問われている。

選挙の最大の争点は、経済が本当に立ち上がれるかどうかだと思う。そのためにはIT(情報技術)革命が不可欠だ。それに伴うデジタルディバイド(情報格差)をどう克服するかも大きな課題です。冷戦終結後の国際社会では、メガトレンド(巨大潮流)がすべて出ている。国会議員は、国際社会で自分の国を代表する機能が大きい。政治家はより大きな社会のトレンドが見えなければ駄目。国際社会における日本のポジションを守らないで、どうして自分が代表している人々の利益を守れるかということを考えてもらいたい。

IT革命は少なくとも2、3年は遅れてしまった。不況で地方の役場は長男の職場になり、二男以下は町や村を出るしかないという風に、自分が代表する集団すら守れていない。メガトレンドを見損なってしまったからです。国際会議が重要性を増しているけれどそこでは技術的な情報ではなく、本当に重要なことだけを話すことが大切になる。それに対応できる政治家じゃないと困る。論理的に物事を話したり、メガトレンドを十分に把握し、その中で日本の戦略的ポジションを見分けて妥協とかネゴ(交渉)とかができる政治家が必要なんです。

すべての根底に教育がある。教育の改善も大事なテーマです。国際理解を深めたり、IT教育をやったり、広く世界に意識を開くようなことを小学校のうちからやる。いじめなどの問題があるけれど、小さな世界を打破してあげることが大事なはずです。道徳教育強化より、感動を与える教育、逆境を乗り越える力が人間にはあることを教える教育を推進してもらいたい。

女性の立場からいえば、女性を意味ある形で登用してほしい。時代の転換期こそ、異種との遭遇というか、異なる人と一緒にやっていく中から新しい活路が見出されることが多いと思う。比例名簿で、女性、男性、女性という順番にするとか、かなり女性を入れることがあってもいい。日本は大国である必要はないと思うけれど、みじめな国にはなってほしくない。でも危機意識がちょっと弱すぎる。だから改革もいまひとつ。危機意識と大きなビジョンを持つ政治家を生み出したい。
(聞き手水野雅之